このエントリーは2021年8月14日に「note」で公開したものです
いきなり結論
◎テレワークに使えます。高音質・高性能です
◎ヘッドホンは音楽リスニングなど幅広く使えます
▲太いケーブルで取り回しはイマイチ。手元操作の便利機能もありません
▲PCとオーディオインターフェイスの使いこなしがそこそこ必要です
▲見た目にガチ感が出ます
ヘッドセットをもうちょっと良くしたい
テレワークの定着で、ビデオ会議への定期的な参加が当たり前になり、なし崩し的に使っていた周辺機材を少し見直してみたくなりました。私が仕事にも使う自宅のメインPCには、業務用のモニタースピーカー(アンプ内蔵のアクティブスピーカー)を繋いでいる関係で、これを駆動するために、すでにオーディオインターフェイスは設置済みでした。オーディオインターフェイスはそもそもマイクやギター、シンセサイザーなどの音をPCに取り込むための入力装置ですから、PCの音をモニタースピーカーから出す出力装置としてだけで使っているのは少々もったいない使い方です。そこで、このオーディオインターフェイスをしっかりと活用できるということを第一に、それができる業務用ヘッドセットを探してみました。
ここでいう業務用ヘッドセットとは、放送用などの機材として販売されているもので、民生用のヘッドセットとの主な違いとして、マイクの接続プラグが3ピンのXLRプラグ(キヤノン端子)だったり、ヘッドホン部分が250Ωなどのハイ・インピーダンスだったりします。ケーブルが別売りで、プラグを選べる場合がほとんどです。
テレワークでビデオ会議をすると、いろいろな人の家庭環境や、PC環境に対する熱意の違いが如実に分かって、興味深いですよね。以前、普段はあまり交流のない業界の人とビデオ会議をしたとき、接続した直後に「え……なんか、ガジェットがすごいっすね……」と軽く引かれたことがありました。背景にはテレビとスピーカーが映っていただけなので、当時は「そこまで特別な見た目ではないような……?」と思っていたものの、もしかすると、当たり前のように付けていた(ゲーミング)ヘッドセットに驚かれていたのかもしれません。そして、今回導入したヘッドセットはそんなガジェット感を超え、「スポーツ中継でスタジアムの実況・解説者が付けているアレ」というガチな見た目になります。いや、見た目だけではなく、事実としてそういう用途で使われている業務用ヘッドセットです。
ビデオ会議で音関連の環境を少しでも良くしようとしたとき、ヘッドホンとマイクを個別に強化していくのか、あるいはそれらが一体になったヘッドセットを強化するのかという2つの方向性があると思います。さまざまな環境を検討した結果、私はヘッドセットで攻める(?)ことにしました。ただ、業務用ヘッドセットは元々「映像に映らない、現場の人のための装備」ということもあり、前述のように映像に映る姿は“ガチ感”が出るので、会議の素性からそういうビジュアルの印象もコントロールする必要がある場合は、留意しておく必要があります。
これまで使っていたのは、ゼンハイザーのゲーミングヘッドセット「PC 363D」です。2013年頃の製品で、今は絶滅してしまった「普通のヘッドホンのデザインのゲーミングヘッドセット」です。接続方法はUSBもしくは3.5mmプラグ×2という一般的なPC向けの仕様です。3.5mmプラグ×2を4極プラグ1本にまとめるアダプターを使えば、PS4/5やXboxなどのコントローラーに接続して使えるので、家庭用ゲーム機でまだ出番はありそうです。

このゼンハイザー「PC 363D」は元々PCのゲーム用に買ったもので、あまり使わないまま置いてあったのですが、昨今のビデオ会議の増加で俄然出番が増えていました。マイクの性能には満足していましたが、ヘッドホン部分はゲーム用に調整してあるためか、中・低音域が強調されていて、ゲーム以外に使うとミスマッチな感じが拭えないという点が気になっていました。もっとも、ビデオ会議では結局のところ人の声を聞くだけなので、このヘッドセットでも十分なのですが、前述のオーディオインターフェイスをちゃんと活用したいという思いもあり、業務用ヘッドセットに移行することにしました。
ベイヤーダイナミック DT 290 MKII / 250Ω
新たに買ってみたのはベイヤーダイナミックの業務用ヘッドセット「DT 290 MKII / 250Ω」です。今回、輸入元のティアックがアウトレットとして半額近い価格で販売していたので、同じく半額程度になっていた別売りのケーブル「K190.40-1.5m」と一緒に購入しました。

新品の場合、サウンドハウスでの価格はそれぞれ2万9800円、9780円で、合計3万9580円ですが、今回のティアックのアウトレット品はそれぞれ1万5400円、4290円で、合計1万9690円でした。だいたい半額になっていますので、内容次第ではけっこうお得です。
ちなみにまったく最近の製品ではなく、このモデルは国内では2011年発売となっています。これまで使っていたゲーミングヘッドセットより前の製品というのは笑えるところですが、ヘッドホン・マイクは枯れた技術の分野ですし、使われているアナログな接続端子も、業務用機器の世界では昔から変わっていません(そもそも接続ケーブルは着脱式・別売りですが)。サラウンドなどの時代の影響を受けがちなデジタル機能も搭載されていませんので、ヘッドセット単体では対応OSがどうとかいうこととも無縁です。そうした意味では、長い間安心して使えそうです。
ケーブル
ケーブルはアウトレットにつき「本体美品」で、「本体との固定用のネジは欠品」という状態でした。ヘッドセットに挿す独自形状の7ピンの接続端子は、けっこうガッチリ挿さるので、家庭での使用ならネジの欠品はあまり問題にはならなそうです。

とはいえ、可能ならネジを用意したいところです。このネジは、国内ではメーカーのスペアパーツとして流通していないようなので、自分で用意する場合、M2×12mmという規格で探します。プラグ側の凹みに収まるネジの頭は通常より小さいようなので、少し注意が必要です。
私は秋葉原のネジの西川(西川電子部品)にてM2×12mmのバラ売り(1本15円)を買ったところ、ナベ頭の直径は実測で3.25mmで、プラグ側の凹みにジャストで収まりました。頭の直径は、聞けばレジでも測ってくれました。頭の直径が3mm以下でないと収まらないと勘違いしていたので、ダメ元で買ったつもりだったのですが、嬉しい誤算でした。


ケーブルの「K190.40」は、ヘッドホン用のステレオ標準プラグと、マイク用の3ピンXLRプラグという2本の構成です。形状はカールコードではなくストレートで、太さと固さは「多少柔らかい電源ケーブル」といった塩梅で、あまり取り回し性はよくありません。
ケーブルのY字分岐以降が短いという場合は、又にある熱収縮チューブ部分をクルクルと転がして一時的にどかし、外側のシースを剥いて切り取る改造をすると、ケーブルの分岐以降の長さを調整できます。私はオーディオインターフェイスのマイクとヘッドホンのジャックの位置が離れていたので、この改造で対応しました。2つが極端に離れている場合は、入手性や外来ノイズへの耐性を考えても、マイク側のXLR端子のケーブルを延長するのがいいと思います。

アウトレット品だから? ひとりですったもんだ
さて、ヘッドセット本体ですが、私の中では一悶着ありました。商品は、アウトレット品としては当たり前ですが、要約すると「訳あり品、本体美品だがデモなどで使用済み・開封品、箱は汚れなどあり、メーカー保証はないが機能的に問題がある場合は1週間以内なら返金」と販売ページで釘を刺されています。
届いて開けてみると、本体には全体に薄く汚れがあったものの、ウェットティッシュで軽く拭くと綺麗になりました。イヤーパッドなどが消耗しているなどの使用感はほとんどなく、プラスチック丸出しの外装もキズなどはほぼ無い状態でした。イヤーパッドやヘッドパッドはスペアパーツとしてバラ売りされているので、それらを別途用意しようかと考えていましたが、思っていたより綺麗なので、軽くクリーニングしただけで、ひとまず今のままで使うことにしました。外箱については元々捨てるつもりなので、汚くても凹んでいても問題ありません。
問題なのは、本体内部の方でした。ヘッドホンから出る音がおかしいのです。音は出ているのですが、ボーカルなど中央に定位するはずの音が、のどの奥に貼りついたように、おかしな場所でべちゃっと潰れていて、音像と呼べるものがまったく浮かんでこない状態でした。モノラルソースの音でも同様でしたし、音像以外も、味気なくまとまりのない音だと思いました。
時間をかけて試行錯誤した結果、オーディオインターフェイスの設定でもケーブルでもプラグでも接触でもなく、ヘッドホンの本体内部がおかしいという推測になり、さらに調べていった結果、「左のドライバーユニットから逆位相の音が出ている」という結論に至りました。逆位相の個体を手にした経験がなかったので、気づくまで時間がかかってしまいました。
逆位相の詳しい説明は省きますが、結果として上記のようなおかしな音になります。原因について言うと、ドライバーユニット(≒スピーカー)に接続されている2本のケーブルのプラスとマイナスが逆になっていることで起こります。有り体に言うと、製造時におけるハンダ付けのミスです。これはあまり議論の余地はなく、正しい音が出ていない、“機能的に問題のある”不良品です。
ヘッドホンとして正しい音が出ていないので、アウトレット品として販売されたとはいえ、さすがに返品・返金対応が可能だったと思いますが、調べる過程で本体を分解し、プラス・マイナスが逆にハンダ付けされている部分もほぼ特定していたので、そのまま自分でハンダ付けを行ない、問題の部分を修理しました。せっかく半額近い価格で買えたのと、外装も綺麗でけっこう喜んでいたので、ハンダ付け2カ所ぐらいなら自分で修理するのが一番いいと思えたからです(言うまでもなく自己責任です)。
問題の部分は、回路部分やジャック部分などではなく、左ドライバーユニットに内部ケーブルがハンダ付けされている、音の経路でいう最後段の部分でした。ドライバーユニットにはあらかじめ、プラス側端子の近くに赤い印が付けられているのですが、驚くことに、この印がそもそも間違っていました。
スペアパーツとして売られている同型のドライバーユニットの画像や、ユーザーによる分解画像などを調べまくった結果判明したのですが、私の個体の左ドライバーユニットは、本来は左側の端子に赤い印が付けられているべきところを、右側に印が付けられていました。

量産されるドライバーユニットの端子のプラス・マイナスの配置がそうそう入れ替わるとも思えず、印がなぜ右側に付けられたのか想像できませんが……左ドライバーユニットにハンダ付けされたケーブルのプラスとマイナスを入れ替える修理の結果、左のドライバーユニットは正常になり、それまでとは比べ物にならない、本来のちゃんとした音が出るようになりました。
冷静に考えると、製造ミスで逆位相になっているというのは、気づいていれば新品でもアウトレットでも売るべきものではないので、今回の不良とアウトレット品であることとは無関係に思えますが……デモ用としてどこかに置かれたり貸し出されていたものが、逆位相だとは気づかれないまま(あるいは報告されないまま)戻ってきて、アウトレットにまわされたのかもしれません。
逆位相の個体は電気的なチェックは通過すると思いますし(多分)、人間が実際に聞かないと気づけないと思います(多分)。想像の域を出ないので正確なところは分かりませんが、メーカーの製造時の問題であって、輸入・販売の会社が管理する内容ではないでしょう。とはいえ、アウトレットのような“どこかで使用された”はずの製品で、こうした一聴すれば分かる不良品が混じっているのも、なんだかなぁといった感じです。もっとも、外装のキズの少なさをみるに、開封されどこかに置かれただけで、一度も使用されなかった個体という可能性もありますが……。
カタログやWebサイトでは「Made in Germany」とアピールされていますが、性能や音質はともかく、品質管理という意味においては過剰な期待は禁物といったところでしょうか。統計的には分かりませんが、ハズレを引き当ててしまうと、どうしてもそういう感想になります。
このように出会いは、お得感や残念感が入り交じる複雑なものになりましたが、機能が正常に戻れば、非常に優秀な性能のヘッドセットです。
ヘッドホンとしてフツーに使える
「DT 290 MKII」は、ベイヤーダイナミックの定番的な業務用のモニターヘッドホン「DT 250」にマイクを付けたという製品です。ベースモデルについて明確に説明されていませんが、形状、デザイン、ドライバーユニットのデザインなどから、そう考えていいと思います。
「DT 250」は販売価格で約2万円(サウンドハウスで1万9800円)のモニターヘッドホンで、それがベースの「DT 290 MKII」も、モニターヘッドホンとして使っても申し分ない性能で、感覚的にはお値段以上だと思います。ヘッドホン部分についてはインピーダンスが80Ω版と250Ω版があり、私は、オーディオインターフェイスがハイ・インピーダンスのヘッドホンにも対応していることから250Ω版を選びました。


音は当然ながらフラットな傾向で、あまりドライではなく質感が分かりやすいです。低音域はかなり低いところまでしっかりと出ていますが、重低音域の量感はうまく抑えられているので、冷静に見通せるようになっています。中音域は適切に明るく、高音域は音色によって少し淡白な印象もありますが、過不足という意味ではバランスがよく、不満はありません。
全体として、聞き疲れしにくい印象で、音楽を聞いていても自然と時間が経ってしまいます。ゲーミングヘッドセットでは音楽を聞きたいとは思いませんでしたが、「DT 290 MKII」は、その素性を考えれば当然ですが、音楽を聞くヘッドホンとして普通に使えてしまいます。PCを使う作業の最中、ちょっとヘッドホンで音楽を聞きたいと思ったら、このヘッドセットで事足りてしまうという塩梅です。左側にマイクが付いているので、重量バランスは多少左寄りですが。
マイク
マイクについては多くを語れるほど知見がないのと、確認のためとはいえ自分の声はあまり聞きたくないのですが……クリアで綺麗に聞こえることは確かです。
完成した音を受け取るヘッドホンと違い、マイクは音を作る側で、配置、フィルター、イコライジングと、さまざまなノウハウが存在し、踏み入れると奥が深い世界です。ビデオ会議は作品の収録ではないので、そこまで気にする必要はないでしょうが……。
説明書によれば、マイクの位置は口の横で、顔との距離は2~3cmが最適、とされています。こうすることで息がかかりにくく、しっかりと音を拾うことができます。マイクブームはグリグリと動くグースネックで、位置決めの自由度は非常に高いです。試しにこの理想のポジションにマイクをセットしてみたところ……スポーツ中継などで見かける、実況・解説者の感じになりました(笑)。

「DT 290 MKII」はダイナミックマイクのモデルです。マイクの種類によって型番が変わり、コンデンサーマイクのモデルなどもあります。私は、一般論として湿気に弱いというコンデンサーマイクの特性を考慮して、より気楽に保管できるであろうダイナミックマイクのモデルを選びました。
ゲーミングヘッドセットなら、ヘッドホンの本体部分でボリュームを調整したり、マイクブームを持ち上げるとマイクがミュートになるといった機能が付いていることも多いですが、「DT 290 MKII」はシンプルで、そうした便利機能はありません。オーディオインターフェイスなどで適時、適切に操作することが前提です。
デザイン、メンテナンス性
外観デザインは潔すぎるほど業務用で、もはや不思議に思えるほど加飾の類がありません。シリアル番号やインピーダンスなどの仕様が外から見える場所に書かれているのも、いかにも業務用という感じです。外から見える部分はほとんどプラスチックで、凝った表面処理もされていません(ヘッドバンドの内部フレームは金属です)。ツヤのあるパーツもメッキ塗装もなく、唯一ヘッドバンドの外側の一部と右側のハウジングに7本の縦線がありますが、これすらも、なにか理由があっての形状なのではと思えるほどです。今更ですが、ヘッドセットの見た目も重視するなら手を出してはいけません。
ベロア生地のイヤーパッドは簡単に取り外せて交換でき、ヘッドパッドも簡単に交換できるよう、チャックのような合わせ目が外から見えています。ヘッドパッドのこれは、ゼンハイザーの「HD 26」(25ではなく)とかの業務用ヘッドホンやヘッドセットでも同様ですので、ドイツでは業務用ツールとして外せない仕様なのでしょう。この2つはサウンドハウスなどでスペアパーツを購入できます。
また、海外ではドライバーユニットをはじめ、ヘッドバンドのパーツ、マイク部分など、ほとんどの部分が売られているようです。国内の流通経路は調べていませんが、いざとなったら入手も不可能ではないということです。

PCでの使い勝手は、オーディオインターフェイスの使いこなし次第
「DT 290 MKII」をPCでヘッドセットとして使う場合、このヘッドセット本体にスイッチやなにかの機能があるわけではないので、使い勝手のほとんどはPC側の環境やオーディオインターフェイスに依存します。私はオーディオインターフェイスとしてRMEの「Babyface Pro FS」を使っているので、これの使い勝手や使いこなし度合いで、具合は変わってくることになります。

「Babyface Pro FS」には多くのRME製品同様、PC上で動くソフトウェア「TotalMix FX」が付属しており、これを使うことですべての設定や操作を行なえるようになります。「Babyface Pro FS」のようにボタンや表示が限られる機器では、「TotalMix FX」を使って制御するのが必須になっていると言えます。
つまり、「DT 290 MKII」をPCでヘッドセットとして使えるかどうかは、私の環境では「TotalMix FX」をちゃんと使えるかにかかっています。ここではその解説まではしません(できません)が、製品付属の(紙の)マニュアルはというと、「TotalMix FX」について各項目を説明しているものの、系統立てて理解するのには向いていない印象です。幸い、多くのRME製品の使いこなしは「TotalMix FX」の使いこなしにかかっているので、輸入元のシンタックスジャパンのWebサイトでは、チュートリアル、YouTubeの動画によるオンラインマニュアルなど、初心者向けの情報がたくさん用意されています。
ビデオ会議で使うという意味では、ビデオ会議ツールで、Windowsのドライバーのマイク入力、音声出力をそれぞれ適切に設定すれば問題ないでしょう。マイク入力については、「TotalMix FX」のスパナボタンで出る設定でゲインを調整しておくのが重要ですが、上げすぎるとヘッドホンから漏れ出ている小さな音も拾ってしまうので、ちょうどよい塩梅を見つける必要があります。
ダイレクトモニタリングが地味にイイ
ゲーミングヘッドセットをPCに接続して使っていた時と大きく異るのは、オーディオインターフェイスを経由すると、マイクで入力する声について、聴感上はまったく遅延のない“ゼロレイテンシー”でダイレクトモニタリングができるという点です。簡単にいうと、マイクで拾う自分の声を、ヘッドホンでリアルタイムに聞くというものです。
Windows上でマイク入力をモニターする設定にする(「このデバイスを聴く」という設定をオンにする)と、どうしても処理上の遅延が発生します。簡単な確認程度ならいいですが、自分で発声した声の場合、それがわずかに遅れてヘッドホンから聞こえるという気持ち悪い状態になります。
まぁ、結局のところ、ビデオ会議ぐらいの用途では、それほどシリアスにこの機能が求められることはないでしょうが……密閉型ヘッドホンの場合は得に、自分の声が耳から入りづらくなるので、耳栓をして喋っているような不安感が出てきます。ゼロレイテンシーで自分の声をモニターできると、そうした不安感も和らげることができます。
ループバック設定もやってみよう
ビデオ会議から派生する使い方としては、自分の声を含めて、会議のやりとりを音声で録音して残す必要があるケースもあります。配信ツールなどを使ってデスクトップの模様をまるごと録画してしまうという手もありますが、ここでは音声のみを録音するケースで考えます。ポイントは「ループバック」で、これもいろいろな手段がありますが、せっかく「TotalMix FX」を使っているので、ここでやってみます。
録音ソフトでは通常、オーディオの入力としてマイク入力を指定しますが、これだとビデオ会議のツールから出ている相手の声(PC内部で再生されている音)は、マイク入力とは別のため、録音できません。ループバックは、ヘッドホンやスピーカーなどの最後の出力側から出ている音を、入力側にも戻すという機能です。これにより、マイク入力にもPCの音が乗るようになり、マイク入力を録音すれば、一緒にPCの音も録音できるようになります。
「TotalMix FX」でループバックを使う際のポイントは、シンタックスジャパンのテキストベースのチュートリアルで、OBSのセットアップの回で解説されていますので、そこを熟読するに限ります(笑)。ポイントは、「AS 1/2」のような、あまり物理的には使われないスロットも、機能を割り当てて使えるという点です。出力の「AS 1/2」でループバックを有効にした場合、ループバック先は入力の「AS 1/2」になり、同じ名前、同じ番号のスロットが対応するという条件があります。物理的には使っていない入出力でも、ミラーリングやループバックのため使う、ということがあるのです。
ちなみに私は「Babyface Pro FS」を導入したすぐの頃に「光端子とか当面は使わんやろ」と、WDMドライバー数を制限する設定で「AS 1/2」のドライバーを削除してしまっており、それを忘れていました。これだと「TotalMix FX」では見えていても、Windowsドライバーとしては存在しない・扱えないという形です。出力スロットで「AS 1/2」にミラーリングしループバック先が入力の「AS 1/2」になった際、録音ソフトでその入力の「AS 1/2」が見えず(ドライバーを消していたため)、ループバック設定が失敗していると勘違いして何時間も悩んでいました。
「TotalMix FX」の習熟が進むと、スピーカー用、ヘッドホン用、ビデオ会議用、会議録音用など、シーンをポチポチと切り替えて使えるようになりますので、なかなか便利です。
まとめ
業務用ヘッドセットの導入は、オーディオインターフェイスやそれのそこそこの使いこなしが必要という条件はありますが、基本的にマイクもヘッドホンも高性能で、かなり満足度は高いです。
「DT 290 MKII」は、音楽が普通に聞けてしまう優秀なモニターヘッドホンがベースになっているので、映画やゲームにおけるサラウンド再生といった用途を除けば、かなり汎用性のある、高いポテンシャルのあるヘッドセットです。いいモニターヘッドホンを探しているなら、場合によっては一石二鳥といえなくもない選択肢です。
ヘッドホンの「DT 250」と、マイクの付いたヘッドセットの「DT 290 MKII」の価格差を単純にみれば、マイク部分には1万円のコストがかかっていることになり、これは単体マイクならそこそこちゃんとしたモデルが買える価格帯です。また実際の音も綺麗で、手抜きされた様子はありません。ケーブルの取り回し、ヘッドセットゆえの左がやや重いバランスなどはありますが、いずれも優れた性能を損なうほどのものではないと思います。
ベイヤーダイナミックでなくても、ゼンハイザー、シュア、オーディオテクニカ、AKGなど、モニターヘッドホンを作っているメーカーは、放送関連機材としてそれらモニターヘッドホンをベースにした業務用ヘッドセットをラインナップしています。コンシューマー向けのカタログにはまず載っていないので見つけにくいですが、サウンドハウスなどで探してみるといろいろと出てきます。とはいえ国内流通がほぼなかったり、取り寄せ品だったり終売していたりするので、現在それらの中で一番入手しやすそうなのが、今回紹介しているベイヤーダイナミックのモデルでした。
私が環境の向上策として、立派な単体のマイクではなくヘッドセットを推す理由は、声がマイクの有効範囲から外れてしまう「オフマイク」にならず、つまり固定されたマイクの前にかじりつく必要がなく、それが気楽な姿勢や気持ちにつながると感じているからです。
また業務用ヘッドセットは、ゲーミングヘッドセットのようなガジェット感のない見た目もポイントです。が、まぁこれに関しては、ガジェット感はなくても“ガチ感”はありまくりなので、それをどう解釈し受け入れるか、あるいは周囲に受け入れられるかは、印象面ではわりと問題なのですが……。いいヤツが欲しいけど、ゲーミングな派手な見た目はちょっと……という人は、気まぐれで検討するぐらいのことはしてもいいかもしれませんよ。

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