1996年の発売から25年に渡って販売されてきた定番ダイバーズウォッチ、セイコーのSKXシリーズが廃番になったという噂を目にして、じわり値上がりが始まる中をかいくぐってSKX009を買ってみました。
理由のひとつは、デザインも仕様も長年親しまれてきた、信頼に足るモデルという点。機械式ムーブメントを搭載するダイバーズウォッチとして最も安価な価格帯の製品ですが、ISO規格を満たす正統なダイバーズウォッチです。もうひとつは、サードパーティが作るさまざまなMODパーツ(改造パーツ)が存在し、自分の考えた組み合わせで自由に交換や改造を楽しめるからです。
MODパーツが豊富なのは、誰もが手に取れるモデルだったことが大きいのではないでしょうか。このモデルは25年に渡って(日本以外の)世界中で販売されてきたロングセラーモデルで、なおかつ安価に販売されてきました。ファンの数、裾野の広がりという意味では、これ以上ないほど親しまれているダイバーズウォッチかもしれません。
SKXシリーズはダイバーズウォッチ単体としてもプリミティブな魅力を備えていますし、それを評価する声に私としても異論はありません。ただ私は、MODパーツがさまざまに作らているのを見て、面白そうと思えたので、改造を試してみることにしました。
以下、当然ながら改造は保証の対象外で自己責任による行為です。
比較的お手軽なベゼルカスタム
MODパーツによる改造で比較的手軽なのは、ベゼルの交換です。ベゼルのパーツはケースの上にはまっているだけなので、裏蓋や風防に触れる必要はなく、防水に関係する部分には手を付けずに交換できます。確実・安全な交換作業のためには、専用の工具があると心強いです。
ダイバーズウォッチのベゼル交換パーツは、MOD界隈においては金属製のベゼルパーツと、ベゼルインサートと呼ばれる数字やインデックスが印字・刻印されるパーツの2つで構成されています。それぞれバラバラに売られているので、好みのデザインや仕上げを選んで、自分だけの組み合わせを作ることができます。
私はnamokiというシンガポールのブランドのWebサイトでパーツを頼んでみました。改造のコンセプトは、基本となる“セイコーのダイバーズウォッチ”のイメージからなるべく逸脱せずに、現代的なフィニッシュを加えるというものです。
ベゼル
このため、まず金属製のベゼルは、デザインの親和性の観点から、ほかのセイコーのダイバーズウォッチのベゼルデザインと一通り比較して、ツナ缶などと呼ばれるモデルに近いデザインで(結果的にサブマリーナ相当のデザインとして売られているベゼルですが)、サンドブラスト仕上げのものを選びました。同じデザインでもポリッシュ、マットブラック、ポリッシュゴールド、ポリッシュローズゴールド、ポリッシュブラックと、さまざまな仕上げが用意されているので、結果を想像するだけでも楽しいです。
サンドブラストを選んだ理由は、オリジナルのベゼルがポリッシュなので、イメージを変えたかったのがひとつ。ポリッシュだと、ケース側面と合わせてほとんどがポリッシュになり、自分の好みの感じよりも、ちょっとピカピカしすぎるかなと思ったからです。
懸念点としては、この腕時計には、ポリッシュと、ケース上面のラグ部分にヘアラインという2種類の仕上げしかないため、サンドブラストという3種類目の仕上げが加わることで、このベゼルが浮いた存在にならないか? というものです。結果からいうと、浮いていると言われれば浮いているのですが、それほどネガティブな雰囲気には感じられませんでした。
この腕時計のケースのヘアライン加工は、薄めで、面積も少なく、正直それほど存在感はありません。サンドブラストのベゼルをはめた状態で横から見ると、ポリッシュかベゼルのサンドブラストかという2つの仕上げに目がいくため、2種類だけのコントラストが強調されて、それが結果的に良かったのかなと思います。
またこれは狙った点ですが、ケースを正面から見ると、ヘアラインのマットな部分だけが見える状態です。これにサンドブラストのベゼルが組み合わさることで、正面から見たステンレスパーツのほとんどがマットなシルバーで見える、という目論見でした。これはほぼうまくいき、サンドブラストとヘアラインで明るさは異なるものの、マットで統一という目的は果たし、落ち着いたイメージがしっかりと感じられるようになりました。
ベゼルインサート
ベゼルインサート(文字が印字・刻印されているパーツ)は、セイコーのダイバーズウォッチのイメージから逸脱しないという今回のコンセプトに沿って、namokiで“SKXスタイル”としてラインナップされているものを選びました。文字通り、オリジナルのデザインを踏襲しているものです。色は黒、夜光塗料なし、表面はガラス仕上げ、というバージョンです。
ダイバーズウォッチにおいてベゼルインサートの文字面は非常に存在感があるため、これの選び方次第で、よくも悪くも、大きくイメージが変わります。私はここで冒険したいわけではなかったので、オリジナルのデザインをリスペクトした形です。
ただ、表面の仕上げはガラスで、ここはオリジナルとは異なります。高級なダイバーズウォッチの中には、中央の風防と連続性のあるようなイメージで、ベゼル表面にもリング状のサファイアガラスをはめ込んだモデルが存在します。ここはアルミやステンレススチールなど金属製が一般的ですから、これにガラスのツヤや奥行き感が加わることで、一味違った見え方になります。12時位置の△の指標に夜光塗料が無くなるのは残念ですが、それ以外は満足な仕上がりです。
カラー
もうひとつ懸念点だったのは、SKX009のカラーです。このモデルはネイビーボーイの愛称で親しまれているように、ベゼルの鮮やかなネイビーとレッドの“ペプシカラー”が印象的ですが、気づきにくいものの、ダイヤルについてもダークネイビーになっています。光の具合次第でほとんどブラックに見えることも多いのですが、明るい環境だとダークネイビーだと分かります。
SKXシリーズのMODに使うベースモデルで定番なのは、そつなく合わせられるブラックのSKX007です。ネイビーのSKX009はサンプル写真などにもあまり登場せず、明確な完成イメージというか、成功する確証を得られないままでした(大げさですが)。
結果はというと、ダークネイビーのダイヤルのみが残り、ほかはブラックで統一されましたが、オールブラックよりもシックなニュアンスが出て、かなり気に入っています。
交換してみましょう
先に価格に触れておきましょう。namokiで買ってみたベゼルは4,300円、ベゼルインサートは4,200円、送料は無料、合計で8,500円でした。封筒に入る郵便物なので、ポストに投函されて届きました。
ベゼルは内側に細いパッキンを取り付けますが、このMODベゼルには予め取り付けられていたのと、予備も1本同梱されていました。またベゼルインサートには、ベゼルに貼り付けるための両面テープが付属していました。私は両面テープが付属しないと勘違いして、シート状の両面テープや円形に切るコンパスカッターを買って準備していました(笑)。
ベゼルはシンプルにガチっとはまっているだけなので、ケースとの隙間に「コジアケ」などの器具を挿し込み、ドライバーのようにひねることはせず、シンプルに隙間を押し広げます。ベゼルの内部には逆回転防止のためのツメが1時位置と7時位置にあるので、ここを避けて、複数か所で隙間を押し広げると、ベゼルが外れます。けっこう固いので、慎重に作業します。ケースに傷が付かないようにテープを貼るなどして対策するのがいいのではないかと思います。
ベゼルが外れたら、シリコン塗布器でシリコンをまんべんなく塗布したパッキンをベゼルの内側にセットします。道具はピンセットがあると便利です。ベゼルは、ベゼルインサートを貼り付ける前の状態でケースに装着します。
ケースにはめる際にはかなりの力をかける必要があるので、裏蓋閉め器を利用します。ベゼルにあてがう裏蓋閉め器のアタッチメントは、ジャストサイズだと閉まるにつれて外周がリューズにぶつかる可能性があったので、微妙に小さめのサイズをベゼルにあてがいました。私が用意した器具はレバー式ではなくハンドル回転タイプなので、ゆっくり慎重に作業できますが、力のかかり具合が伝わってこないため、はじめて作業した時は「このまま続けていいのか?」と少し不安でした。はまる時には「バキンッ」と2か所で音がして完全にはまりました。
ベゼルがはまったら、回転させて動作に問題ないことを確認します。取り付けたのはサードパーティ製のベゼルですが、動作やフィーリングは純正ベゼルと変わらない感じでした。