アウトドアブランド「muraco」(ムラコ)のアパレル第1弾ラインナップにあるマウンテンパーカー「LIM SHELL JACKET」(リム シェル ジャケット)を買ってみました。
muracoのアパレルアイテムは、2021年末から展開が始まったばかりで、まだ大手ブランドのような大量生産はしていないとのことです。このため販路もかなり限定されています。2022年の4月末時点で直営店や通販以外では取り扱われておらず、都内に限ると試着は2月にオープンしたばかりという直営店でしかできない状況でした。いろいろ調べるうちに、なんとなくそうだろうと察していたので、東京・立川の直営店に向かい、試着してから買ってみました。ここでは、手にとって興味深かったポイントを紹介してみたいと思います。
私は身長169cmで、標準体重をやや超過といった塩梅ですが、Mサイズはジャストサイズ、Lサイズは袖が親指に少しかかる程度のやや余裕のあるサイズでした。Mサイズでも窮屈さはまったく感じず問題ありませんでしたが、厚めの服を着込んで真冬でも使いたい、という観点で、店員さんと相談しながらLサイズに決めました。透湿性が高く、半袖になるような季節以外の3シーズンで着られるということでした。
細部のディテールはハイレベルなアウトドアウェアそのもので、軽く、動きやすく、変なところはありません。Lサイズを選んだのは下に着込めることも考えてのことだったので、実際に自宅でナンガのフードなしタイプのダウンジャケット「AURORA STAND COLLAR DOWN JACKET」(Mサイズ)の上から着てみましたが、窮屈になることもなく、しつらえたかのようにすっぽりと収まりました。これなら真冬のアウターとしても活躍できそうです。

ブランドの経緯や雰囲気は公式Webサイトでしっかり紹介されていますので、そちらに譲ります。雑誌では「GO OUT」vol.149、2022年3月号でmuracoの特集が掲載されているので、雑誌読み放題サービスに加入している人は、読んでみると参考になると思います。それによると、muracoは2016年に始まったブランドで、タープの金属ポールで注目を集め、デザインコンシャスな「黒いテント」は業界でも話題になったとのこと。
現在もテントやキャンプ関連の製品がラインナップの中心に据えられており、直営店でもテントやキャンプ関連のグッズが大きく紹介されています。全体としてはシンプルなデザインですが、カラー展開はアウトドアブランドでは避けられている節もあるブラックやグレー、ホワイトといったモノトーンオンリーなのが、逆に新鮮に映ります。本格的な仕様やデザインに、都会的なモノトーンのセンスを組み合わせているというイメージです。

さて、私のウェアの利用では、街歩きや、せいぜい首都圏での日帰りキャンプといった軽いアウトドアでの使用になると思います。私は本格的なフィールドでの使用は想定しておらず、そういう視点でチェックしていないので注意してください。もっとも、ブランドとしてはフィールドテストを繰り返して発売しているとのことですし、テントなどで実績を積んでからのアパレル展開なので、あまり心配していないのですが。実際の製品も各部はしっかりと作られており、頼りない雰囲気はありません。
「LIM SHELL JACKET」は耐水圧20,000mmで、大雨を超える「嵐」にも対応できる、アウトドアウェアとして高レベルな防水性能です。縫い目にしっかりと防水シームテープが貼られています。ウェアの重さはLサイズで478gとなっており、体感的にはかなり軽いと感じます。
eVent

まず中間のメンブレンについて紹介しておきます。これは買ったからといって分解して調べるわけではないのですが……表地と裏地の間には、防水性・透湿性を持つ機能素材として英BHAテクノロジーが開発した「eVent」(イーベント)が採用されています。中間のメンブレン素材で、平たくえ言えばゴアテックスのようなものです。日本ではゴアテックスのような知名度はないものの、実際にはそこそこ歴史のある素材で、構造も比較的ゴアテックスに近く、防水・透湿素材としてゴアテックスに並ぶ代表格であるようです。提供先のブランドも無数にあります。
その特徴は高い透湿性にあるようで、eVentのWebサイトでは、ほかの素材と異なり「水に濡れても透湿性が機能する」とあります。都会の街歩きでは、防水性能をそれほどシビアに求めることはありませんが、「思ったより汗をかいてしまって不快」というケースはけっこうあります。その名称(Vent=通気孔)にもあるように、高い透湿性には期待したいところです。実際に軽く外で着用してみても、蒸れにくいという性能は確かに高そうな感触です。

生地、パターン、シルエット
表地は、中間のメンブレン素材とは異なりある程度自由度があるので、ブランドのデザインセンスが発揮される部分だと思います。使用されている表の生地は、ナイロン100%で、縦糸20D、横糸45Dとなっており、近くで見ると少し筋目が見える、表情のある生地です。テカりすぎずマットすぎず、比較的高級感のある見た目といっていいと思います。どちらかというと“アーバン・アウトドア”な文脈での選択だと思います。
生地は少しハリのあるタイプです。ふにゃふにゃした感じではありません。これもまた些細ですが高級感につながっています。店員さんいわく、少しシワが付きやすいので、濡れた常態で伸ばさずに長時間放置するのは避け、ハンガーなどにかけてほしいとのことでした。

パターンは思っていたよりも複雑で、前身頃や肘まわりは複雑な縫い合わせが行なわれています。いずれも生地を二重にするとかの補強ではないので、デザイン的な要素が強めですが、いい塩梅にアクセントになっています。
肩部分はバックパックの肩ストラップの下に縫い目がこないように、肩甲骨から胸までが一枚布のパターンです。ラグランスリーブではありません。前身頃の脇からおヘソのあたりにかけて斜めの縫い合わせは、実際には左右ポケットの袋を兼ねている部分なので、まったく無意味というわけではありませんが、デザイン的なアクセントになっています。またこの関係でポケットは上にも広い、けっこう大きい形状になっています。


シルエットで特徴的なのはフード部分です。表地やパターンは、近くで見ないと分かりづらい、奥ゆかしいこだわりですが、フードのシルエットは遠くからでも「なんか雰囲気が違うな」と感じられるポイントです。ヘルメットを装着したまま被れるということで、比較的大きくて立体的です。つば部分は、ほんの少しだけ厚めで、ほかの生地部分と比べると形状を保ちやすくなっています(固いわけではありません)。このつば部分が前に長めなので、シルエットもカッコよくなっています。
つば部分が前に長めという点は、個人的にはおすすめしたいポイントでもあります。私はメガネを着用しているのですが、コロナ禍でマスク必須となって以降、冬はメガネの曇り止め対策も欠かせなくなりました。スプレーをしたり、曇り止め効果のあるクリーニングクロスで拭いたりするのですが、この状態でレンズに雨などの水滴がかかると、ドロッとした見た目になって水滴がレンズに張り付き、視界が非常に見づらい状態になってしまいます。アウトドアウェアを愛用していると、小雨ぐらいならフードを被るだけで十分という場面も多いのですが、冬の曇り止め対策をしたメガネだけは、少しの水滴もかけたくないという状態になるのです。こうしたこともあって、フードのつば部分は、長いなら長いだけありがたいと感じているのです。

ヘルメットを想定した大きめのフードは、それを必要とするような本格的なアウトドアウェアのほか、ヘルメットが必須なミリタリージャケットのフードでもみられるディテールです。幅もあるので、ふわっとフードをはずせば、おにぎり型の三角形になります。
このサイズ感、日常生活では不要かというと実はそうでもなく、例えばパナマハットなど、まわりにつばがあり、くしゃっとできる柔らかめの帽子なら、帽子を被ったままフードを被れてしまいます。帽子は内部で潰れますが、フードの長さが足らなくなることはありません。帽子を被っているならフードを被る必要はないかもしれませんが(笑)、例えば大雨でフードの内部を濡らしたくないという場面なら、帽子を被ったままフードも被れてしまいます。

ほかに細かな部分と見ていくと、あまり目立ちませんがファスナーの取手についているコードは反射素材を編み込んだタイプでした。もっとも、パーツとして大きくはないので効果の程は限定的だと思います。
内ポケットは左右に2つあり、左側はファスナー付き、右側はファスナーなしの縦長のポケットになっています。取り付け位置は、一般的な内ポケットよりも下側です。これは前身頃のパターンが影響しているのかもしれません。アクセスしようとすると前ファスナーをおへそぐらいまで下げる必要があるので、頻繁に利用するものを収納するのには向いていなさそうです。
左袖にはブランドロゴが配されていますが、反射タイプではなく、かなり綺麗なホワイトのプリントです。ベースの生地の黒色が透けていないところをみるに、しっかりと隠蔽処理がされているようです。ブランドロゴはウェアの外側ではこの左袖部分だけです。普通は左胸あたりにロゴを入れがちですが、それもなし。冷静に考えるとかなり思い切ったシンプルさで、左袖のロゴの存在感が際立っていると感じます。
前ファスナーのフラップは少し幅広で、存在感があります。上側は少し斜めに広がっているデザインで、閉じても、閉じていなくてプラプラしていてもカッコよく見えます。フラップを閉じる面ファスナーはマスクに触れるとくっつく場合もあるので、少しだけ気を使う必要があります。口元だけは面ファスナーのフック側(固い方)とループ側(柔らかい方)を入れ替えるとか、留具の種類を変更してもよかったかもしれませんね。
フロントポケットは少し高めの位置に付いてますが、これはバックパックのウエストベルトに埋もれないようにする、アウトドアウェアのディテールですね。ポケットの袋はメッシュ生地ではないので、ポケットを開けてもベンチレーションにはなりません。ポケットの中身が身体の汗や蒸れの影響を受けづらいともいえます。
脇にはベンチレーション用ファスナー、裾とフードにはドローコード、袖の先端には面ファスナーと、アウトドアウェア/マウンテンパーカーとしてひと通りのディテールが揃っています。
まったくないものを挙げるなら、服を吊るすループです。このウェアには裏にも表にも、フックにひっかけるためのループが付いていません。私は濡れて家に帰ってきたとき、玄関近くにS字フックで服を吊るして乾かす、ということをよくするので、ループがないのは少し残念です。アウトドアウェアに限らず、アウターではけっこうメジャーなディテールだと思うのですが……。




