スターリンクはアメリカからサービスが始まったわけですが、国土が広く車社会ということで、車に積んで便利に使っている人も多いようです。特にキャンピングカーで移動しながら生活している人などは、スターリンクでネット環境やその品質が激変することから、かなり重宝されているようですね。
そうしたコミュニティや盛り上がりを見ていると、お決まりの改造やテクニックが頻繁に紹介されていることに気が付きます。それは、スターリンクをDC電源で運用するというものです。
以下で紹介しているのは非純正のシステムです。どなたが試されても、あらゆるすべての作業とその結果は作業者の責任です。怪我をしても火事になっても、私は無関係です。この事を予め完全に理解した上で楽しんでください。
車で動かせないスターリンク
スターリンクのシステムは家庭の壁コンセント、つまりAC電圧(交流電圧)から電源をとるのが基本です。2023年9月時点では、それしかできません。まぁこれは普通といえば普通です。
しかし米国のコミュニティでも疑問を呈されているのですが、車載のカーチャージャー/シガーソケット、つまりDC電圧(直流電圧)から電源をとる手段が、純正のシステムではオプションなどを含めて用意されていないのです。スターリンクはモバイル(旧ROAM/RV)というプランが提供されており、場所を問わず、車で持ち運んだ先でも自由に使えるのに、なぜ車(=DC)から電源をとるオプションがないのか? というわけです。

DCは見た目でも分かりやすく、「プラス・マイナスがきっちり分かれている」のがDCです。電池で駆動する機器はDCを使っていますし、同じく充電式バッテリーで駆動する機器もDCです。伝統的な車載バッテリーやポータブル電源のバッテリー、また太陽光発電パネルから出力されるのも大抵はDCです。「ACアダプター」を使う機器もそうで、黒いボックス部分で壁コンセントのACをDCに変換しているので、DCで動いているということになります。
電源がACだけ問題
スターリンクの長方形のアンテナとWi-FiルーターがセットになったGen 2と呼ばれる世代の製品は、ACコンセントに接続する電源ケーブルの反対側を、(デスクトップPCやテレビのように)そのままルーターに挿し込む仕様です。ACをDCに変換する部分はルーターに内蔵されています。
これはいろいろと可動部があるアンテナにアンテナケーブルで電力を供給する必要があるとか、ハードウェアの数をシンプルにするとかのさまざまな理由があると想像できるのですが、車に積んで車載バッテリーで使いたいとか、ポータブル電源で使いたいと考えると、「ACからしか電源がとれない」というスターリンクの仕様はいろいろと残念、という指摘に至ることになります。

アメリカでは「Gen 3」世代のWi-Fiルーターが単体で登場、招待制で一部に提供が開始されており、いくつか報告もあがっています。Wi-Fi 6対応のほか、LANポートを標準で装備、前面にインジケーターLED装備など強化・改善点は多いようです。電源部分はACアダプターの外付けタイプに変更になり、DC 30V 1Aという仕様のもよう。アンテナケーブルのルーター側の独自端子もRJ45と思われるものに変更されているようです(防水のため形状は独自ですが)。ただし、PoEインジェクターとしての機能はない(ケーブル1本でアンテナに電源を供給できない)ようで、このためGen 2 アンテナとの相性は悪く、Gen 2アンテナにGen 3 Wi-Fiルーターを組み合わせて使いたい場合でも、既存のGen 2 Wi-Fiルーターとイーサネットアダプター、バイパスモードがセットで必要になると報告されています。こうした微妙な仕様は、そもそもこのGen 3 Wi-Fiルーターが、来るべき次世代の衛星システムに対応する、新しい世代のアンテナをサポートするために開発されたから、と考えられています。既存のGen 2 アンテナまでのサポートはあくまで後方互換性の確保のためで接続方法が微妙でも仕方がない、と推測されています。
世にあるバッテリーの類はDCなので、AC電源ケーブルしかないスターリンクに給電しようとすると、ACコンセントを用意する、つまりDCからACに変換する必要が出てきます。一般的な車の場合ならカーインバーターといった機器がこれに該当します。ポータブル電源にはACに変換するインバーターが内蔵され、機器前面にACコンセントが用意されています。
次のポイントは、DCからACという変換には必ず変換ロス、電気の損失が出るということです。家庭の壁コンセントに常時接続して使うならあまり問題になりませんが、車載バッテリーやポータブル電源といった有限なリソースから給電する場合、そうした変換ロスは減らしたくなります。
特にポータブル電源でスターリンクを使う場合、家庭の壁のACコンセントからACアダプターでDCに変換して予めバッテリーを充電した上で、それをACに変換して機器前面のACコンセントからスターリンクに給電、さらにスターリンクのWi-FIルーター内の電源部でACからDCに変換するという形になり、トータルではAC→DC→AC→DCという3回の変換が発生してしまいます。
こうしたことから、スターリンクの電源を直接DCからとれるようにして、車載やポータブル電源での運用でスターリンクのためにACを用意するという無駄を省く、というのが今回の試みです。同時に、有線LAN環境になるので、アンテナ配下のLANを自由に構築できる環境にもなります。
我が家のスターリンクは緊急用のインターネット回線なので、基本的にポータブル電源とセットで稼働させることが前提になっています。自動車は所有していないので、車載時のあれこれは試せていません。
最近のポータブル電源にはパススルー充電モードなどと呼ばれる機能が搭載されています。これは、ポータブル電源を予備として仕舞っておくのではなく、普段の生活で使いながら災害に備える、というコンセプトです。ポータブル電源が壁のACコンセントにつながっている状態だと、接続された機器にはバッテリーを使わずに給電するという仕組みで、充放電の繰り返しによるバッテリーの劣化を防ぎながら満充電をキープしておく、という使い方ができるようになっています。
DC電源で動かすメリット
こうした環境にて、スターリンクをDC電源で稼働させるメリットですが、まずはシガーソケットに代表されるDC電源に直接接続して、ACに変換せずに稼働できるという点が挙げられます。純正でこれができるオプションパーツはないので、車載利用の場合は特にメリットは大きいでしょう。
ポータブル電源でもDC→ACの変換が不要になることでポータブル電源の稼働時間が伸びることも期待されます。またスターリンクのシステム側でも、AC→DCの変換がなくなります。ただしこれらは採用するDC電源化パーツの仕様や挙動に大きく左右されると思われるので、DC電源化を果たしたからといって大幅に省電力駆動が可能になるというほど簡単ではないようです。
電源以外では、有線LAN環境を追加できるという点もあります。スターリンクのGen 2のシステムはWi-Fiルーターしかなく、有線LANに対応するためにはイーサネットアダプターを別途購入する必要があります。DC電源化システムはその仕組み上、アンテナケーブル(PoE)を有線LANのRJ45に変換するので、有線LANポートが設置される形になります。
副次的には、ポータブル電源(Anker 535、512Wh)の稼働が静かになることもメリットです。これはシリアスなものではないですが、ポータブル電源のACコンセント口を使うと、DC→ACの変換基板を冷やすため、(我が家の製品は)内部のファンが常に回るようになります。部屋が静かな時間帯だと「ウウウウウ」という低い唸り声のようなファンの騒音が地味に気になります。USB端子やシガーソケットを使う、つまりDC→ACの変換をしない給電方法だとファンは回らないので、無音の稼働が可能になります。
ポータブル電源が壁ACコンセントにつながれた「パススルー充電」であっても、前面のACコンセントを使うとファンが回ります。これは、ポータブル電源の内部で使われる電気は、そもそもACアダプターによってDCに変換されているからで、「ACをパススルーしている」わけではなく、DCをACに変換する基板は必ず動作するから、ということのようです。
ファンを回して基板を冷却する必要がある、という事実は、DC→AC変換で少なくない変換ロスが発生していることを示しています。変換ロスとは通常、エネルギーが熱になって外に逃げてしまう形で表面化するからです。一方で、アンカーの最近の製品では、一般的な変換効率である80%台から大幅に伸びた、変換効率96%を謳う次世代半導体「GaN」搭載モデルも登場するなど、DC→AC変換の変換ロスには改善の兆しもみられます。
DC電源化システムの概要
今回試したスターリンクのDC電源化は、私が独自に知恵や工夫をこらしたわけではなく、アメリカのスターリンク専門情報サイト(例えばStarlink Hardwareのチュートリアルカテゴリーなど)やRedditといったコミュニティで紹介されている定番的な製品の組み合わせを参考にして再現したものです。

スターリンクの純正のシステムは、アンテナ本体、アンテナケーブル、Wi-Fiルーター(含む電源)という3つに分かれています。スターリンクにおける「ルーター」ですが、実はWi-Fiルーターだけでなく、アンテナ本体にもルーターが内蔵されており、多段ルーターのシステムになっています。原理的にはWi-Fiルーターがなくても、アンテナに電源を供給しアンテナケーブルでアンテナ本体のルーターと通信できれば、システムは機能します。
Gen 2のスターリンクのシステムにおいて、Wi-Fiルーター(電源)とアンテナは1本のLANケーブル(のようなもの)でつながっており、Wi-Fiルーターの代わりにPoEの仕組みでアンテナケーブルに電源を供給してやると、アンテナやアンテナ内蔵のルーターが機能して、基本的な通信機能が稼働するという形です。
DC電源化システムでは、純正品としてスターリンクのアンテナとアンテナケーブルのみを使い、残りは使いません。スターリンクのWi-Fiルーターは不要になります。オプションのイーサネットアダプターも不要です。あの尖った変な形の筐体や、AC電源オンリーの仕様から開放されることになります。一方で、有線LANポートがあるだけの環境になるので、ルーター・Wi-Fiルーターを別途用意する必要があります。
DC電源化で新たに買って用意したのは、アンテナケーブルの変換アダプター(写真下)、PoEインジェクター(写真中央)、DC-DCコンバーター・昇圧電源(写真上)の3つのアイテムです。これに加えてシガーソケットから電源をとるためにシガープラグを作りました。

写真の黒いPoE用LANケーブルは、下の変換アダプターに付属しているものです。PoEの対応W数などの仕様的に、代替できる市販品は少ないと思われるので、ほかのLANケーブルで代用せず、素直に付属品を使います。
1) アンテナケーブルの変換アダプター
スターリンクのアンテナケーブルはPoEの仕組みを流用したものです。PoE(Power over Ethernet)は有り体に言うと電源を供給できるLANケーブルの規格です。Gen 2のアンテナケーブルのプラグは、Wi-Fiルーターのデザインに合わせた変な形状で、先端の端子もSPXと呼ばれている小さい台形の独自プラグになっており、カスタムしたい界隈では案の定、非標準の独自端子の評判は悪いです。ただ配線はPoEを流用したものなので、LAN端子(RJ45)を自分で製作できる人は、ケーブルをカットしてスターリンク独自の配線を修正することで、汎用的なPoEのLAN端子に変えることが可能です。
最近になって、この独自プラグを標準的なRJ45に変換するアダプターが登場しており、アンテナケーブルを改造する必要がなくなりました。中国・深センの「YAOSHENG」というメーカー製で、「Dishy v2 original cable to RJ45 adapter」という製品です。スターリンクのPoEの仕様に対応する短いLANケーブルも付属しています。


スターリンクのアンテナケーブルはPoEで48Vということになっており、日本において住宅の壁の穴を通して屋内に引き込むといった“工事”には、電気工事士の資格が必要になる、と解釈されています。36V以下なら「電気工事」の対象ではない「軽微な工事」にあたり、資格は不要とのことですが、スターリンクのアンテナケーブルは有資格者による工事の対象になってしまうとみられています。
2) PoEインジェクター
アンテナケーブルの実態はPoEであり、配線はLANケーブルを模したものですが、ここにはPoEとして電源を供給する必要があります。スターリンクの純正Wi-Fiルーターの底面には、このPoEの出力について「48V 2.0A LPS」と記されています。直流で、LPSはリニア電源のことです。
PoEの仕組みにおいては、一般的にPoEインジェクターと呼ばれる、LANのネットワークの途中に設置してLANケーブルに電源を供給する装置があります。PoE自体が、一般的には監視カメラなど、遠隔かつ電源が必要なネットワーク機器向けに、敷設するケーブルの数を減らせるものとして利用されている規格です。PoEなら、通信も電源もLANケーブル1本で済むというわけです。
一方で、スターリンクのアンテナケーブルは、PoEのLANケーブルの仕組みを流用しつつ、現在規格化されているものより多くの消費電力を使う独自の内容になっています。丸形のGen 1 アンテナでは180W、長方形のGen 2 アンテナでも150Wが必要とされていますが、現在のPoEの規格では「PoE++」のPoEインジェクターでも90~100Wまでしか提供できません。
そこで、件のコミュニティでは、スターリンクDC電源化システムを実現するため、スターリンクの仕様に合わせた独自のPoEインジェクターについて、調査や開発、情報共有が行なわれ、まずはケースなどもない基板だけの製品が作られて、広まっていったようです。現在では、ケースに収まった製品然とした見た目の、特別な技術は不要で稼働できる製品も登場し、より試しやすくなっています。
今回買ってみたPoEインジェクターは、前述のアダプターと同じYAOSHENG製で「150W 4 Pair GigE PoE Injector with surge protection」という製品です。このPoEインジェクターは入力が「48~57 VDC 3A」となっており、定格48Vの電源の入力が必要です。

PoEインジェクターが設置されると、必然的に有線LANポートが設置されることになります。スターリンクのGen 2の純正システムはWi-Fiが基本で、有線LANを使うためには「イーサネットアダプター」を別途購入しWi-Fiルーターに取り付ける必要があります。このアダプター、アメリカ国内では25ドルですが、日本から買うと1万400円もします。スターリンクのLAN環境を改造したいと考えている人なら、これを買わずにDC電源化に進んでしまうのも手かもしれません。
3) DC-DC コンバーター 昇圧電源
上記2製品とセットでよく紹介されているのが、「uxcell」などのブランドから販売されているDC-DCコンバーター(昇圧電源)です。「電圧コンバータレギュレータ DC 12V~48V 8A 360W」という仕様のこれは、上記のPoEインジェクターに必要な48Vを作る電源で、12Vの入力を48Vに昇圧して出力します。
入力の12Vは、カーチャージャー/シガーソケットの出力のDC 12Vという仕様に合致します。ポータブル電源のシガーソケットもほとんどが、車の仕様に合わせてDC 12V 10Aという仕様だと思います。
この昇圧電源から生えている電線ケーブルは、Amazonの製品画像で写っている線と太さ(AWG)が異なりました。手元に届いたものは、12Vの入力側が12AWG、48Vの出力側は14AWGでした。

4) シガーソケットプラグ
ポータブル電源のシガーソケットから電源をとるため、シガープラグのキットを買いました。これは、使用する電線ケーブルの太さを昇圧電源の入力と同じ12AWGに合わせたかったからですが、12AWGは市販のシガープラグの線としては太く(14AWGなら製品がありました)、採用している製品を見つけられなかったので、自作するに至りました。ヒューズは3Aが付属していましたが、試運転ですぐに切れたので10Aにしました。
シガープラグのケーブルと昇圧電源との接続は、XT60コネクタで着脱できるようにしました。XT60コネクタは、メス側コネクタの金属端子2つが“同じ部屋”にあるため、金属パーツなどが同時に触れてしまうとショートする可能性があります。このため、メスコネクタは電気を供給する側ではなく、受け取る側に付けます。ただ昇圧電源側のコネクタも取り扱いに注意は必要です。




使ったシガープラグのキットは緑色の通電LEDが搭載されていたのですが、LEDが不良品だったらしく通電・点灯しなかったので、LEDの足をカットし、LED用の抵抗も取り外して結線しました。
5) 裸圧着端子
昇圧電源の出力側、48Vが出力される14AWGのケーブルは、PoEインジェクターの電源入力端子に接続します。この端子はビスと角型ワッシャー? で挟み込むタイプで、被覆を剥いた電線をそのまま挟んで固定できますが、ちょっと不安もあったので、裸圧着端子を取り付けて通電を確実にして、すっぽ抜けない仕様にしました。
圧着端子の選定ですが、14AWGという線の太さに適合することが前提ですし、PoEインジェクター側の端子取付部分に制約(幅6.4mmまで、M3ネジ)があるため、適合する裸圧着端子の種類は限られます。JST(日本圧着端子製造)はありがたいことにメーカー直販でバラ売りに対応しているので、JSTで適合する製品を調べて注文しました。
今回の適合サイズは丸形(R形)だと「2-MS3」、角先開形(A形)なら「2-M3A」です。どちらも買いましたが(笑)、今回は2つ付けるだけで作業性とかは関係ないので、より確実な丸形を使いました。圧着工具は「2」(2sq.)の部分を使います。







板に固定
必須というわけではないでしょうが、昇圧電源は車載などを前提とした仕様で固定用の穴が空いています。またPoEインジェクターなども、M3.5のネジがちょうど通る穴があいていて固定できるようになっています。件のコミュニティでもなにかしらに固定され紹介されていることが多いので、それらに習って、ホームセンターで適当な棚板を買ってきて固定してみました。
私の場合、常設というより、使いたい時だけ出してくる運用になると思われるので、木の板の端に取っ手も付けて持ち上げやすくしてみました。まぁ雰囲気装備ですが……。この取っ手、固定するビスのために板に正確な間隔で垂直に穴を開ける必要があり、結果的に片方は微妙に場所がズレました。この木工作業が一番手こずったかもしれません(笑)。

何をどこで買ったか
YAOSHENG製のアンテナケーブル用アダプター「Dishy v2 original cable to RJ45 adapter」と、PoEインジェクター「150W 4 Pair GigE PoE Injector with surge protection」は、いろいろ比較した結果、YAOSHENGの直販サイトから個人輸入という形で買いました(Where to Buyの後にYAOSHENG.SHOPを選ぶ)。ケーブルアダプターは30ドル、PoEインジェクターは75ドル、配送は一番安いやつにして合計は117ドル、9月初旬のレートで決済額は17,830円でした。注文してからちょうど1週間で届きました。
昇圧電源は「uxcell」ブランドを取り扱っているuxcell JapanのAmazon.co.jpのマーケットプレイスにて、送料無料、5,720円で買いました。国内に在庫がないためこちらも輸入になり、注文から8日で届きました。
結線されていないシガープラグのキット、12AWGで1mの電線セット、XT60 カバー付きコネクタ、10Aヒューズは、千石電商の通販サイトで買いました。送料350円込みで2,663円でした。注文の翌日にネコポスで届きました。
裸圧着端子はJSTの直販サイトで買いました。必要なのは2個ですが、少なすぎて申し訳なかったのと、ネコポスみたいな安価な運賃のオプションはなかったので、丸形と角形をそれぞれ10個ずつ注文しました。送料は500円、ヤマトで、普通のダンボールに入って注文の4日後に届きました。
このほかホームセンターで木の板(厚さ18mm)、機器を固定するM3.5×16の木ねじ、ドア・引き出し用のステンレスの取っ手、木の板の裏に貼るゴム足などを買いました(板の裏側に、取っ手を固定するネジの頭が露出するため)。
今回の作業専用ではないものの、工具類も、手持ちになくて必要そうなものは揃えてみました。ケーブル、圧着端子関連では、ツノダのケーブルカッターと圧着工具です。圧着端子自体が今回のシステムでは必須ではないものの、使うなら適合する種類・サイズの圧着工具も必要になります。
木の板に付けるステンレスの取っ手は、ネジを通す穴を貫通させる必要があるのですが、垂直に穴を開けないとうまくいかないだろうということで、神沢鉄工のドリルガイドも買ってみました。


シガープラグなど電源に近い部分を自作していたこともあり、電流の具合は気になっていたので、ケーブルをはさむだけで電流を計測できるクランプテスターも買ってみました。フォーク形状で手軽な、共立電気計器の「フォークカレントテスタ MODEL 2300R」(現行の製品本体の表記はKEW 2300R)です。Amazonで10,270円でした。デジタルマルチメーター(テスター)の電流計測は難易度が高いですが、クランプテスターは完成した後でもケーブルをサッと通すだけで測れて便利ですね。

動きはじめたらあとは見るだけ
シガープラグの自作、裸圧着端子の取り付けは自分で考えてやりましたが、それ以外はアメリカを中心としたコミュニティで紹介されている既製品を繋げただけで完成しました。
このDC電源化システムでポイントになっているのはPoEインジェクターでしょう。スターリンクのアンテナに合わせた出力の仕様や、サージプロテクター内蔵、LANポートはギガビット対応といった過不足のない内容です。
今回のアイテムのうち、昇圧電源とPoEインジェクターをひとつの筐体に収めたような、ほかのガレージブランド? の製品も存在するのですが、国際発送の問題かクレジットカードの問題か分からないのものの買えなかったので、最終的に、比較的紹介されていることが多い今回の3アイテムに至りました。

DC電源化システムには、その仕組み上、何かの設定を変更するといった要素はありません。そもそもPoEインジェクターとはそういうものだと思いますが、緑のLEDだけがシステムが起動しているサインで、一度安定して動き始めるともうあれやこれやと調整する余地はありません。
DC電源化システムが成功すると、スターリンクのWi-Fiルーターは不要になり、PoEインジェクターの有線LAN端子を起点としたLAN環境を自由に構築できます。自前のWi-Fiルーターを用意して(5GHz帯を止めて)屋外で使ったり、既設のLANの上流を置き換えたりできます。自前のルーターでは、PoEインジェクターのノーマルLANポートから出るケーブルをルーターのWANポートに接続し、DHCPクライアントのローカルルーターとして動作させます。

スターリンクのアンテナケーブルはカットするとかの改造をしていないので、何かあれば従来の純正システムに戻せます。
用意した木の板のフットプリントはそこそこなサイズ(30×15cm)で、残念ながら純正のWi-Fiルーターより省スペースで済むとかにはなっていません。

変換ロスが減って稼働時間は伸びた?
シガープラグに最初から付いていた3Aのヒューズがすぐに切れたので、実際の消費電流がどれぐらいか気になりました。そこでケーブル部分でDCの電流を計測できるクランプメーター(私のはクランプではなくフォークですが)を買って、シガープラグ付近のケーブルを測ってみたところ、目測の平均で3~4Aと幅があり、システム起動直後などは瞬間的に6Aぐらいになる電流でした。
また昇圧電源から出て48VでPoEインジェクターに入る白・黒のケーブルは、起動直後は瞬間的に1.5~2.1A、そのほかはおおむね1A前後でした。
ポータブル電源のディスプレイに表示される、出力しているW数の表示をみると、10W台から120W超まで、かなりめまぐるしく変わります。シガーソケットの12V 10A(120W)という仕様をフルに使っている瞬間がある、といえそうです。
ちなみにDC電源化システムの発熱ですが、昇圧電源は少し暖かくなり、連続稼働させた状態で表面温度は34℃ぐらいでした。PoEインジェクターについては、外から分かるほどの発熱はありません。


今回のDC電源化システムでスターリンクを稼働して、512Wh(160,000mAh)のポータブル電源(Anker 535)で連続何時間動くのか簡単に測ってみました。
まず全てスターリンク純正のシステムですが、スターリンクのWi-Fiルーターにイーサネットアダプターを装着してバイパスモードにし、Wi-Fiを止めた状態で、有線LANでも特に通信をせず待機状態で稼働せたところ、約8時間でポータブル電源のバッテリーが0%になりました。
次に、DC電源化システムでスターリンクを起動して待機状態で放置すると、約9時間稼働できました。純正システムと比較すると、約1時間、稼働時間が伸びたことになります。
これに加えて、DC電源化システムで、ネット上のコンテンツを使うケースも試しました。ノートPCでYouTubeやスポーツ中継などのライブ配信を絶え間なく再生したところ、約8時間稼働できました。
- 純正システム・バイパスモード、通信待機状態:約8時間 →64W
- DC電源化、通信待機状態:約9時間 →57W
- DC電源化、ストリーミング再生:約8時間
単純計算ですが、DC電源化により、我が家のポータブル電源では稼働時間が8時間から9時間に、約1時間(12.5%)伸びた形です。消費電力でみると、純正システムは平均で64W、DC電源化システムは平均で57Wということになり、11.9%の省電力化を実現できたという計算です。
また、スターリンクのシステムはそもそも、通信してもしなくても消費電力に極端な差が出るわけではないこともわかります。

まとめ
スターリンクのDC電源化システムは、車載のシガーソケットのDC12Vを電源として使いたいといった、純正システム・パーツが対応していない仕組みを実現するところからスタートしています(アメリカなどのコミュニティの話です)。シガーソケットはポータブル電源でも採用されていることから、ポータブル電源でDCのまま使えるというメリットもあります。
もうひとつは、日本から買うと高価な純正のイーサネットアダプターを買わずに済むという点があります。DC電源化のついでに、有線LANに対応できることになります。
一方、DC→ACやAC→DCの変換ロスを省くことによる省電力化やポータブル電源の駆動時間の延長は、それほどインパクトのあるものではありませんでした。ポータブル電源のディスプレイで消費W数を見ていても、めまぐるしく数値が変わり、時折けっこう大きな出力も出ていて、平均値を押し上げてそうだなという印象でした。
このあたりは、今回採用している汎用電源のDC-DCコンバーターやPoEインジェクターの挙動・仕様が、純正システムほど最適化されていないためと推測でき、ポータブル電源のDC→AC変換ロスの回避分が、DC電源化システムの最適化不足で相殺されていると考えられます。
例えばオーストラリアのSpaceTekというメーカーが製作・販売している「StarPower 12V/24V – Starlink DC Power Supply」という製品は、今回のシステムでいう昇圧電源とPoEインジェクターが一体になった製品で、消費電力はスターリンク起動時に110W、起動後は平均30Wと説明されています。これが額面通りなら、AC駆動のスターリンクが目測平均で50W前後をうろうろする(公称値は平均50~75W、我が家では64W)ことと比較して、少なく見積もっても2~3割は消費電力を削減できることになります。
昇圧電源とPoEインジェクターを組み合わせたスターリンク用の製品は、上記のSpaceTek以外にも、ウクライナのAB production製「POE adapter for Starlink 10-27V」が販売されています。また昇圧電源を含まないスターリンク用PoEインジェクターなら、今回買ったYAOSHENG製以外にも、カナダのOverland Electronics製「OE-SLPOE01 Starlink Dishy PoE Injector」があります。比較的早い段階から開発されているケースがない基板だけの製品は、DishyPowaやAB productionなどから販売されています。
今回のDC電源化システムは異なるサードパーティ製品の寄せ集めですし、ポータブル電源での運用では稼働時間が少し伸びたものの、トータルの消費電力は20%減ぐらいを期待していたので、単純計算で約12%減というのはちょっと消化不良な印象が残ったというのが正直なところでしょうか。
もっとも、応用のきかない純正Wi-Fiルーターの使用を回避したり、有線LANの環境を自由に構築したりできるのは、独自仕様で固めた扱いづらいハードウェアに対するカウンターパンチのようで、ある種の痛快さを感じるのは偽らざるところです。
スターリンクの衛星コンステレーションのシステム自体は、現状ではどんな企業も追いつけていない素晴らしいものになっていますから、電源やLANの仕様を“開放”する今回のようなテクニックは引き続きチェックしていきたいところです。
コメントを残す